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東京高等裁判所 昭和40年(う)888号 判決

被告人 三沢四郎

主文

原判決を破棄する。

被告人を罰金一五、〇〇〇円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五〇〇円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

被告人に対し公職選挙法第二五二条第一項に定める五年間選挙権および被選挙権を有しない旨の規定を適用しない。

当審および原審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人福島幸夫、同稲田進五連名提出の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これを引用する。

一  控訴趣意中事実誤認の主張について

原判決挙示の各証拠を総合すると、原判示の事実は、被告人が原判示の官製はがき四枚を久保福子に指示して宛名を書かせたうえ郵送した点および右久保福子を介して手交したものであつて、直接手交したものではないとしても、結局被告人が同様のはがき約二八〇枚を、島崎貞一が他の多数の後援会員に配布することを了知しながら、島崎貞一に手交した点をも含めて、すべて十分に認めることができる。記録を精査し、当審における事実取調の結果を検討しても、原判決に所論のような判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認の疑いは存しない。(なお、原判決が、被告人が本件約二八〇枚のはがきを久保福子を介して島崎貞一に手交した事実を、被告人が直接島崎に手交したと認定したことをもつて、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認とすることも当らない。)論旨は理由がない。

二  控訴趣意中法令適用の誤りの主張について

所論は、本件文書は、小山省二後援会所属の者に対し、小山省二の移動選挙事務所の設置および立会演説会開催の各日時、場所を通知するために使用するもので、その配布先は忠生村ならびに堺村(小山地区)小山省二後援会員に限定されていたのであり、その内容からみても、また、その取扱いに関与した被告人その他の関係者の認証においても、単なる選挙事務連絡文書にすぎないと主張する。たしかに、本件文書は官製はがきの裏面に謄写版刷りで「今回衆議院選挙に立候補致しました当地出身小山省二候補の選挙事務所を左記に移転致しましたので御連絡申し上げます尚御通知洩れの方がありましたらよろしくお伝え下さるようお願い申上げます。記一、日時十一月十八日午後二時 一、場所町田市小田急駅前堤ビル二階電0427-4-5882 立会演説会十四日忠生中学校後七時一五分 十八日町田第一小学校後一〇時一〇分」と印刷したものであつて、所論のように、小山省二候補の移動選挙事務所の設置および立会演説会開催の各日時場所を通知することを内容とする文言がその主要部分をなしていることが明らかであるけれども、なお、その文書中には、とくに小山省二候補が「当地出身」である旨を強調し、また御通知洩れの方がありましたらよろしくお伝え下さるようお願い申し上げますと附記した部分等もあつて、その内容全体からみて単なる選挙事務連絡文書にとどまるものとすることができないし、その他、本件文書には公職選挙法第一四二条第二項、同法施行令第一〇九条の三所定の選挙用である旨の表示のないこと、本件文書のうち原判示の島崎貞一に手交されたものの大部分は、宛名を記載しないまま後援会所属の者によつて戸毎に配布されており、それらの配布関係者においては、いずれも、本件文書が小山省二候補の当選を得る目的で配布されるものである旨の認識を有していたと認められることからみて、本件文書がその外形内容自体からみれば選挙運動のために使用する文書にはあたらないが、実際には選挙運動のために使用する文書として頒布されたことは明らかである。原判決には所論のような判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りは存しない(なお、控訴趣意中には、公職選挙法第二四三条第五号の罪が成立するためには、同法第一四二条の禁止を免れる目的があることを要するとする部分があるけれども、同法第二四三条第五号の罪の成立要件として、当該文書がその外形内容自体からみれば、選挙運動のために使用する文書にはあたらないが、実際には選挙運動のために当該文書を使用することの認識があることを必要とするほかに、所論のような同法第一四二条の禁止を免れる目的があることを必要とするものでないことは規定の文言自体に徴して明らかであり、また、被告人が本件文書の頒布にあたり右のような認識を有していたことは原判決挙示の各証拠により明らかである。)論旨は理由がない。

三  控訴趣意中量刑不当の主張について

記録を調査し、当審における事実取調の結果を検討し、これらにあらわれた被告人の本件文書頒布の経緯および態様、本件文書の内容、被告人の原判示の選挙運動において果した役割、被告人の年令、経歴その他の社会的地位等諸般の情状を考え合わせると、被告人を罰金一万五千円に処し、あわせて選挙権および被選挙権を二年間有しないものとした原判決の量刑は、その選挙権および被選挙権を停止した点においてやや重すぎるものというべく、公職選挙法第二五二条第一項に定める選挙権および被選挙権を有しない旨の規定を適用しないとするのが相当であるから、この点において原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。

そこで、本件控訴は理由があるから刑事訴訟法第三九七条、第三八一条により原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書により、さらに判決する。

原判決の確定した被告人の犯罪事実に法律を適用すると、原判示の被告人の所為は公職選挙法第二四三条第五号、第一四六条に該当するので、所定刑中罰金刑を選択し、その金額の範囲内で被告人を罰金一五、〇〇〇円に処し、右罰金を完納することができないときは、刑法第一八条により金五〇〇円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置すべく、前記のような情状に鑑み、公職選挙法第二五二条第四項に則り、被告人に対し同条第一項に定める五年間選挙権および被選挙権を有しない旨の規定を適用しないこととし、当審および原審における訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項本文により全部被告人に負担させることとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 河本文夫 清水春三 西村法)

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